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台所の温もり 〜奪っていたはずの「普通」を返せた日〜

neru

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2026.05.31

母がグループホームに入居して1か月。
面会のため施設を訪れた私は、思わず立ち尽くしました。
そこには、職員さんと並んで夕食のカレーの準備をする母の姿があったからです。

母は包丁を手に、じゃがいもの皮を剥いていました。その手つきは驚くほど軽やかで、何より、その表情は心から楽しそうでした。
私はその瞬間、嬉しさのあまり、止まらない涙を拭うことしかできませんでした。

在宅介護をしていた頃の私は、常に「もしも」の不安に怯えていました。
「火の消し忘れがあったらどうしよう」「鍋を焦がしてしまったら……」。そんな心配から、私は母を台所から遠ざけ、包丁を握らせることさえ封じてしまっていました。
それが母を守るためだと信じていましたが、今思えば、私は母から「生活する喜び」さえも奪っていたのかもしれません。

フルタイム勤務の私と、平日は通所介護利用の母。2人暮らしの中で、私は母に多くの「我慢」を強いていました。
しかし、施設という安心できる環境の中で、母は本来持っていた力と自信を取り戻し、ごく当たり前の日常を謳歌しています。

面会時は、他の入居者の方々とリビングで語り合い、部屋でゆっくりと過ごし、時には近くを散歩し、また施設のカラオケ大会で楽しむ。母と過ごす時間は、これまでにないほど穏やかで、満ち足りたものでした。
「プロにお任せする」という選択が、母にこれほどの笑顔をもたらすなんて。
私は時折、こんなに楽をして良いのだろうかと罪悪感を覚えるほど、母との幸せな時間を噛み締めていました。