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第二の我が家へ架ける橋 〜「良いトコ取り」で見つけた平穏〜

neru

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2026.04.29

グループホームに入居したその夜、ホーム長さんから一本の電話が入りました。
「食べません、入りません、眠りません……。お母様、ずっとリビングの中を歩き回っていらっしゃいます」

母は夕食も拒否し、お風呂にも入らず、部屋から持ち出した母と私の二人の写真を片時も離さず握り締めて、「娘はどこですか?」と探し歩いているとのことでした。
その光景を想像しただけで、胸が張り裂けそうになり、今すぐ母のもとへ行きたい衝動に駆られました。
しかし、電話口のホーム長さんの誠実で冷静で温かな言葉に支えられ、私は身を切る思いで「お任せします」と告げました。

翌日の仕事中も、心ここにあらずでした。
休憩時間に電話で様子を聞くと、ホームでは混乱している母のことを最優先に考え、常に誰かが寄り添って、一対一に近い形で見守ってくださっているとのことでした。
そんな手厚い対応に感謝しつつも、まずは環境に慣れるため「今週一杯は面会を控えたほうが良い」という施設側の見解に合意しました。

その日の会社帰り、私は以前お世話になっていた通所介護のケアマネジャーさんのもとを訪ねました。
「親離れできない自分が情けない」「最高のステージを用意したはずなのに、自己嫌悪で押しつぶされそう」。
溢れ出した私の焦燥感と悲しみを、ケアマネジャーさんと保健師さんは静かに受け止めてくださいました。
そして、そっと背中を押してくれたのです。

「これからも、neruさんらしく介護に参加してみたらどうかしら? ご家族とホームが手を取り合う形に惹かれた、って仰っていましたよね」

その言葉で、視界が開けました。
私はすぐにホームへ連絡し、土曜日の「入浴介助」を一緒にさせてほしいと申し出ました。

4日ぶりに会った母に、私は持参した短パンとTシャツを見せながら明るく声をかけました。
「お母さん、一緒にお風呂に入ろう! 大きくてキレイなお風呂だよ。私も一緒だから大丈夫」

職員さんと協力しながら、一緒にお風呂に入り、背中を流す。
母はみるみる上機嫌になり、とても嬉そうに、私を見て笑ってくれました。
「これからは、ホームの人と一緒にお風呂に入ってね」という私の問いかけに、母は真っ直ぐに私を見て「分かった」と答えてくれました。それ以来、お風呂を嫌がることはなくなったそうです。

夕食の介助をし、歯磨きや着替えを手伝い、自宅と同じ流れで部屋のベッドへ誘導する。
すると、あれほど不穏だった母が、驚くほどスムーズに眠りについてくれました。

それから2週間。4月末には母はすっかり「第二の我が家」の住人になりました。
私は好きな時に母に会いに行き、介助を手伝い、あとはプロにお任せする。
それは名実ともに、精神的にも肉体的にも平穏な「良いトコ取り介護」の始まりでした。

私のわがままな提案を柔軟に受け入れ、母のペースを第一に考えてくださったグループホームの方々、そして契約が切れてもなお、私の心に寄り添い続けてくれた通所介護時のケアマネジャーさんと介護事業所の皆さんに心から感謝しております。
本当にありがとうございました。
どのステージにいても途切れることなくサポートが受けられる介護保険制度のありがたさを、今、噛み締めています。

進むことも戻ることもできず立ち止まっていたあの日の私に、今は言ってあげたい。
「あの決断は、間違いじゃなかったよ」と。