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「貴女の部屋はどこ?」〜母がくれた新しい道〜

neru

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2026.02.23

4月開所予定のグループホームへの入居を決断しようとしながらも、私の心は常に「心残り」という重石で沈んでいました。
母はどう思っているのだろう。この決断は私のわがままではないだろうか。
年が明けてから、何度か話題にしてみましたが、母の本心に触れることはできないまま、時間だけが過ぎていきました。

自宅から徒歩5分。建設が進む新しいグループホームを、買い物ついでに外から眺めることが、いつしか母との日課になっていました。

ある日のことです。いつものように建物の前を通りかかると、新設されるホームのホーム長さんが声をかけてくださいました。「中を見ていきませんか。」

誘われるまま足を踏み入れた新しい建物は、まだ木の香りが新しく、光に満ちていました。
母はどこか楽しそうに、ひとつひとつの部屋を見て回っています。すると、ふいに母が私を振り返り、無邪気な声でこう尋ねたのです。

「ねえ、貴女の部屋はどこなの?」

その問いに、私は息が止まりそうになりました。
母にとっての「新しい家」には、当然のように私の居場所も含まれていたのです。
父が倒れてからどこへ行くにも一緒だった7年間。母の頭の中には、私と離れて暮らすという選択肢などなかったのでしょう。

言葉に詰まる私を助けるように、ホーム長さんが「ここは第二の我が家ですから、いつでもいらしてくださいね」と優しくフォローしてくださいました。

その帰り道でした。母がふと、静かな声で言いました。
「新しいところに行っても、良いよ。」

その言葉が、母のどのような思考から生まれたものかは分かりません。
でも、私の迷いや苦しさを、母は直感的に感じ取っていたのだと思います。
私のために、母は自分を納得させ、決断してくれた。私にはそう思えてなりませんでした。

「ごめんね、ごめんね……。」

私は人目もはばからず、泣いてしまいました。
謝っても謝りきれない申し訳なさと、母の深い優しさが、涙となって溢れ出しました。

介護は、施設に場所を移したからといって終わるわけではありません。
むしろ、ここからがまた新しい向き合い方の始まりなのだと、自分に言い聞かせました。

母が身をもって示してくれたこの新しい道。
いつか心から「この道を選んで正解だった」と笑って言えるように。私はこれからも、この「第二の我が家」で、母と真っ直ぐに向き合い続けていこうと心に誓いました。