contact

ケアラーズコンシェル

ケアラー体験記

ブログ

「介護離職しない、させない」和氣美枝著

neru

取材OK

2025.11.06

母の認知症介護を始めてから、気がつけば7年の月日が過ぎ去っていました。その間、通所介護(デイサービス)を利用しながら、私はただひたすら自分なりに精一杯在宅介護をしていました。しかし、心も体も限界を迎え、考え抜いた末にようやく施設入所という「大きな決断」を下しました。

施設介護に移行して1年近く経った頃、急に立ち止まってしまったのです。プロに常時お任せできるのはありがたい反面、「このまま手を離してしまって良いのだろうか」という、ぼんやりとした不安が胸に広がりました。在宅の時は、毎日母のために動くことこそが「介護」だと信じていました。でも、施設に入ると、良くも悪くも私は一歩引いた立場になってしまい、7年間必死で母と向き合ってきた「介護者としての自分」が、遠ざかってしまうような寂しさと後ろめたさに襲われました。

そんな心細い日々の中、たまたま入った本屋さんで一冊の希望に出会ったのです。和氣美枝さんの『介護離職しない、させない』というタイトルが、働く私を強く惹きつけました。プロローグを立ち読みした瞬間、涙が出るほどの共感を覚えそのまま購入して一気に読破しました。そこには私と同じように悩み、それでも仕事や自分の人生を手放さなかった、たくさんの「戦友」とも言える介護者の生の声が魂の叫びのように詰まっていたのです。

本を読み終え、著者が主催する「働く介護者お一人様介護ミーティング」が開催されることを知りました。藁にもすがる思いで、「施設介護ですが、参加しても良いでしょうか?」とメールを送りました。すぐに返ってきた和氣さんからの返信は、今でも鮮明に、私の心に焼き付いています。

「施設介護も立派な介護です。どうぞ、いらしてください。お待ちしています。」

この一文に触れた瞬間、私を長らく覆っていた後ろめたさや罪悪感が、霧のようにすっと消えていくのを感じました。あの温かい言葉は、私にとっての「救いの光」でした。

初めて参加したミーティングは、私の介護観を根底から揺さぶる、良い意味で衝撃的なものでした。他の参加者の方々と心の内を分かち合う中で、私は自分の介護への関わり方を自分で決めて良いのだという、確かな自信を得ました。

特に私の心を支え、今も私を導いてくれている大切な言葉があります。それは「介護は選択と判断の連続だが、正解は無い。それは、何を選択しても正解」という言葉です。これを聞いた時、「ああ、もっと肩の力を抜いていいんだ、私は間違っていなかった」と、張り詰めていた心がゆるみ、本当に解放されました。私が無理なく私らしく母に関わること、それこそが介護なのだと心から思えるようになったのです。

今振り返ると、あの本との出会い、そして和氣さんやミーティングの仲間という「居場所」との出会いは、人生における分岐点です。介護者である自分を誰かに認められ、ありのままを話せる場所があることの重要性を痛感しています。

あの本に書かれていた「あなたの経験が誰かのためになる」というメッセージは、まさに私自身の使命となりました。自分の経験を語ることで、今孤独に耐えている誰かの心を少しでも軽くできるかもしれない。この大きな気づきから、私もまた、誰かの選択肢を増やす一助になりたいと強く願うようになりました。

だから今も、私はこの大切な場所に参加し続けています。

介護が終わるその日まで、私は「娘」として母を愛しながら、同時に「介護者ではない私自身の人生」を大切にする。この変化こそが、私がこの道のりで得た、かけがえのない宝物です。