【第13回議事録】働く介護者を取り巻く環境~会社・職場と折り合いをつける

2015年11月21日

今日の参加者

6名(女性4名、男性2名)※ファシリテーター含む ファシリテーター 和氣 スタッフ 4名 オブザーバー 4名

事例紹介【事例1】

介護は、介護者を取り巻く4つの環境―①親族、②職場、③地域・行政、④医療・介護―をコントロールしなければならないと言われています。 本日はその中の「職場」とどう折り合いをつけるか?がテーマです。事例として参加者の方の体験談を話していただきました。 【事例1】 <カミングアウトしなかった理由> 社風が体育会系なので理解があるとは思えなかった。当時営業部で、休んだらコースを外れてしまうと思い、絶対言うまいと考えていた。 <カミングアウトした理由> 異動先の上司が細やかな方で、自分が介護のために昼休みに帰宅したり隠れて休んでいることに気付かれた。そこで打ち明けたところ、「体が大事だから少しでも休憩を取り一人の時間を作りなさい」と言っていただいた。 また、社内発表の機会に「介護者による介護者のケア、サポートをしたい」と発表したところ、介護者であることが社内で公けになり、相談を受けるようになった。自分の経験をあえてユーモアを交えて話すことで、相談者の方も気軽に話そうかという気持ちになってくれた。 <会社・自分はどう変わったか> 嘘をつかなくて済むようになった。隠れて休憩を取ったり(トイレでおにぎりを食べたり)、要介護者の具合が悪くて休みが必要な時、自分の具合が悪いと言ったりしなくて済む。 平日セミナー参加の了承を得やすくなった。 部内は何も変わらなかった。変にいたわられたり業務を減らされることはなかった。 仕事の取り組み方は、休める時にはしっかり休み、要介護者との時間を大切にしている。以前は這ってでも仕事にいっていた。 <カミングアウトして良かったこと> 嘘をつかなくていい。社内に他にも介護者がいることがわかった。 会社にもよるので絶対カミングアウトした方がいいとは思っていない。信頼できる人に言うだけでも違ってくると思う。

事例紹介【事例2】

親が介護状態になったことは、会社には言わなかった。 なぜなら・・・ 会社に言うという概念がなかった、言う環境がなかった、パニックで言うどころじゃなかった。 言うことのメリット・デメリット、言った結果がどうなるかが想像できなかった。 もし言っていたら・・・ 当時の職場では、隣の席に人事担当者がいたので発信すれば耳に届いたかもしれない。 当時は社内規定がなかったので、言うことで制度を立ち上げるきっかけになったかも。 会社もポリシーがなければその先に進んでいかないと思う。 ----------- 世論では、会社に伝えるべきか伝えざるべきか、伝えたら昇進昇格に影響が出るのではないかなどいろいろ言われていますが、それらは自分の勝手な思い込みに過ぎないかもしれません。 実際に行動してみていないで、憶測で恐れているだけではないでしょうか。

介護をしていることを会社に上手に伝える工夫

ここで、「会社に伝えた方がいい」と思うか否か参加者の皆さんに聞いてみたところ、「伝えない方がいい」と思う方がいらっしゃいましたので、理由をおうかがいしました。 ◆社風によっては介護者は「業務の足を引っ張る」という風に思われる。 ◆(介護制度とは)本来であれば、仕事に支障を出さないように、サービスを使ったり家族でカバーし合ったりするものだと思う。支障が出ないのであれば会社にあえて言う必要はない。が、それでは全然足りず自腹で利用したり家族に頼めなかったりしているのが現実だが…。 また、欠席でしたが「必要以上のことは伝えていない」という方のコメントを紹介しました。 ◆会社に伝えてはいるが、必要以上のことは言っていない。言えば、休暇も取れるし支援もしてくれると思う。しかし、社会人としてのプライドがあるので責任を持ってやることをやりたい。 ----------- 私たちは、働く介護者が「会社とどう折り合いをつけるか」という事例になっていかなければならないと思っています。しかし、会社に「介護している」と言うべき理由は何か、目的が分からなければ言おうという発想も出てきません。会社に言うと、何が楽になるのでしょうか? ----------- ◆自分にストレスを負わせない。嘘をつくとストレスになる。 介護の認識が一般的になっていないので、会社と意思疎通はうまく行かなかったが、理由を言えるようになったのでそれは楽になった。 ◆デイサービスからの突然の呼び出しなどで帰宅せざるを得ない時に理由を言わないと反感を買う。信頼できる相手に一言でもいっておくといい。 ◆要介護者が入院したときには会社に言った。退院すれば入院前と同じ状態になると誰もが思ったがそうではない。介護の認識が薄い、なぜ男子が介護をしなければいけないのかと思われる。 自分は介護体制のキーパーソンになっていたのでスムーズに介護に入れたが、兄弟は配置転換に遇った。同僚は理解していても、上層部はそこまで理解してもらえない。配置転換を繰り返し、休暇を使い果たし、肩たたきをされてしまった。 ◆保育園からの呼び出しだってしょっちゅうあるが、働く母親には会社の態度は暖かい。でも育児も介護も同じ、年齢が違うだけ。むしろ介護の方が命にかかわると思う。 会社では『育児・介護休業制度』という名称で同じ枠組みで扱っているが、育児の方にばかり目がいってしまう。「介護でも突然の呼び出しがある」などアピールしていくと、他の人のためにもなる。 ----------- まだまだ「仕事と介護の両立」とか「介護をしていることを会社に言う」という風潮がないので、会社に介護をしていることを言う目的を会社も本人もわかっていません。 私たちは「言った方がいい」と考えていますが、その理由の第一は「自分が楽になる」「嘘をつかなくていい」ということです。制度利用云々以前に、言うことにより精神的に楽になるのだということをぜひ世間に伝えたいと思います。

介護をしていることを会社に伝える意味と意義

一方、介護者にカミングアウトしてもらうことは、会社にとってどういうメリットがあるのでしょうか? ◆理想論としては、介護も育児も細切れの時間で働くことになる。それに対処できる会社は今後伸びる理由になると思う。 ◆働き盛りで重要なポジションにある人たちが辞められる前に対策できる。でも言わないと「いる」ということがわからない。 ◆介護者を理解できる企業とは、誰が会社を支えているかというのが原点にある。 40代50代で介護が突然始まった時に、リスクマネジメントを考えてくれる企業でないと真剣に向き合って考えてくれない。社会が介護問題に真剣に取り組んでいかないと、雇用の需給バランスが完全に崩壊してしまう。 ◆この時代に介護に対して知識、理解がない会社はこの先厳しいと思う。今自分の会社ではフレックスの導入、在宅勤務の検討がされている。 ◆カミングアウトすることで変化を投げかけられる。仕事内容にもよるが、介護が始まったらいきなり離職に結びつくことはせず、在宅などちょっと働き方を変えればその会社に居続けることが可能なのではないか。 ----------- 介護対策の先端にある会社は、制度設計がもう終わっていますが、制度設計だけでは足りないのでは?ということに気付きはじめています。介護に直面する前段階での教育や介護相談を受ける方への教育に取り組み始めています。 次の方向性として、社内の介護者の経験に価値を見出すべきと識者は言っています。

介護をしていることを会社にどうやって伝えるか?

会社には介護をしていることを伝えた方がいいが、同僚などから伝わったのでは意味がありません。本人から話してもらうためには、どういうアドバイスをしてあげたらいいのでしょうか。 ◆起こるだろうことを具体的に伝える カミングアウトされた方は、介護によって仕事にどのぐらい影響が出るのか想像がつかない。「呼び出しがあって急に帰るかもしれませんがよろしくお願いします」などという風に伝えるといいと思う。 ◆「人事に制度があるか聞きに行ってみようよ」 ある程度の規模の会社であれば、制度はあると思うので一緒に寄り添ってあげて本人から会社に伝える手伝いをする。ただし、小さい会社は直接上長に言うしかないので上長が理解があればいいですが・・ ◆「啓蒙活動のお手伝いをしてくれませんか」 まだ何もルールがない会社なら、「社内のパイオニアになって」と声をかけてみたらどうでしょう。 ◆「自分が笑顔でいるために会社に話してみようよ」 介護者と要介護者がお互いが笑顔でいれる環境を作らなければいけない。 自分が経験したことの結果やリスクも伝える。笑顔は在宅介護で一番重要なこと。家族でしかできない寄り添い方がある。 ◆自分の経験を包み隠さず話す 生々しい話もあえて話すことで、制度を整備したり、利用しようという気持ちになってもらえる。 相談してきた方も想像がついてほっとする。 ----------- 介護していることがこの先どうなるか、を含めて会社に伝えることは非常に良いアイデアではないでしょうか。 会社が仕事と介護の両立を支援するのは、従業員の家族介護によって経営を左右されない状況を作るためです。その中で、介護者に対し一時的に配置転換があってもいいと私は考えます。なぜなら、介護は状況が変わるものだからです。例えば、在宅介護から施設入所になったので、再度仕事に注力できるようになるということもあります。そういった長期的な視野を持って、会社も介護者も配置転換があったとしても、モチベーションを下げない努力をすべきではないでしょうか。 世間では会社に伝えることのデメリットばかりを考えてしまいますが、私たちはメリットをあえて発信していきましょう。 介護をしていくとどうなるか、会社も本人も分からないのです。経験者が「こうなる」と言ってあげることが、次の介護者を救い、会社も救うことになると信じています。

雑感

「働く介護者おひとり様介護ミーティング」が無事に3年目を迎えられたのも、参加してくださる皆様や、アラジンのご協力あってのことです。心より感謝申し上げます。そして、毎回、新規の参加者が増えていくことに、本ミーティングの社会的意義を強く感じております。ありがとうございます。 介護をしていることを会社に「隠して」いるのであれば、今すぐ会社に介護をしていることを報告しましょう。「会社に報告しても・・・」とお思いの方もたくさんおられると思います。「相談」でなくてもいいのです。「報告」でいいのです。心のストレスは知らぬ間にたまっていきます。心が傷つくまえに早めに会社に報告しましょう。 私たちは時代のパイオニアなのです。私たちが「働きながらの介護」を悪戦苦闘しながらもがいているのは、先人の知恵が少ないからです。同じように会社も「介護」を知りません。そして、9割の未来の介護者は介護をしながら働くことに不安を抱えています。未来の介護者や現在、仕事と介護の両立に悩む働く介護者にとって、「ほかのひとはどうしているのか」という事例はとても貴重な情報なのです。 介護者自身の人生が「社会の役に立つ」という時代であることを知ってほしいものです。