【第20回議事録】職場だけじゃない!ケアハラを考える

2017年01月21日

今日の参加者

参加者の皆さんの介護の様子や、常連の方には周囲へ働きかけていることをお伺いしました。 【Aさん/アルバイト】 家族3人で母を7年ほど在宅で介護していたが、今は療養型施設に入れて3年になる。 知人の役に立てればと、このミーティングへの参加を続けている。 夫は夜勤業務をしており、同僚にはシングルの中年男性が多いのだが、親の介護に直面して誰にも相談できずに途方に暮れている方もいる。それで『仕事と介護の両立支援ハンドブック』(*1)を差し上げたら、すごく救いになったそうだ。情報が分かったし、気持ちがすごく楽になったと。 【Bさん/総務部】 母が要介護5で、介護は14年目。母一人子一人なので、自分がやるしかない。最近は介護費がかかるようになり、在宅の限界を感じるようになった。会社には、介護7年目頃カミングアウト済み。今は人事に従業員が介護相談に来ると、経験者として私を紹介してくれるようになった。地方の拠点に勤務する方や、実家が遠方の方などもいらっしゃり、自分が知っている情報を相談者にご案内している。 【Cさん/人事部】 昨春母が癌になり、急に介護が必要になった。母は親戚に知られることを望まず、我々家族も親族に相談できなかった。そこで社内の先輩方に聞いて、何とか介護の体制を整えられるようになった。それでも通院の付き添いで月に数回休みが必要。でも職場体制が不安定になるので、何か方法がないかと探している。自分だけでなく社内で同様に苦しんでいる方が多かろうと思うので、今日はいろいろ教えていただきたい。 職場は話しやすい雰囲気ではある。相談も親身に聞いてくれた。当初、自分が宣告されたかのようにショックだったが、職場の方に「君がそんな風に感じていてはいけない」と言われて落ち着けたということがあった。

言われて傷ついた言葉って何?

【和氣】 私は介護者からのケアハラの報告をいろいろ受けているが、「それは介護に限らないのでは? ただの社内イジメでは?」とも感じる。そういう空気を作ってきた自身にも少しは責任があるのでは。 私の例では、少し前に近所のコンビニの店長から苦情を受けた。認知症の母が、お金を持たずに買い物に来る。家にお金を取りに行ってくるが金額が足りない。そんなことが1日3回位あり、スタッフが疲弊して辞めてしまうと。 私に言われても困ると思ったけど、店長は私が対応すべきだと言う。 でももしこの件を役所に相談に行ったら、お店の方が対応しなさい、変わりなさいと言われるだろう。母にお金を持たせなかったり、お店に行かせないことにすれば、私が経済的虐待をしていると言われてしまう。 だから、「コンビニにお金を預けるので、足りないときはそこから充ててください」と言ったところ、その後連絡がない。 これはとても悔しかった。こんな高齢者は世にたくさんいるはずだから、我が家だけ対応しても抜本的解決にはならない。これってケアハラじゃないか?と思った。 【Bさん】 エピソードはたくさんある。 ・叔父から母の介護のことで縁を切られてしまった。「介護は子供がするもの」という考えで、私が介護のために仕事を辞めないことがとても許せず、罵倒され、二度と連絡するなと言われた。 自分がすごく辛い時期だったので悲しくて、電話口で泣いて訴えたがわかってもらえなかった。 叔父のような考え方は今もまだ多いのではないか。「介護は身内がすべき、他人に自分の親の面倒を任せるのはどうなんだ」と。 ・職場では、「(介護はともかく育児については)子供をベビーシッターに任せるのは不安、家で何をされてるかわからない」「介護保険を使っている身内がいないのに介護保険を引かれるのが納得いかない」といった発言がある。私が介護者なのを知っていても忘れて、何気なく言ってしまう。そういうことで傷つく人もいるのに。 ・初動期、ケアマネとの面談時に介護が辛いことをわかってほしくて「施設入所を考えている」と言ったら、「姥捨山にお母様を捨てるの?と言われた。言う方は悪気がないとは思うが、在宅支援員の立場で主介護者の私に言うことか? ・お見合いをしたら、お相手の母親に「嫁に入ってくれる人を探している、あなたのように大きいお荷物を抱えている人にはご縁がない」「実の母をお世話もせずに外でバリバリ働いている人は家庭的な雰囲気が全くない」などと言われた。要介護者を抱えていることがまだ受け入れてもらえてない。また、自分も将来要介護者になるかもしれないとは思ってもらえないんだなと感じた。何も言えなかった。 ・逆に自分は、今は介護体制ができてしまっているので、介護初心者の気持ちを忘れてはいけないなと思う。相談者に、知ってて当然のような話し方をしてはいけない。「あ、そんなときは地域包括支援センターに行けばいいですよ」なんてサラッと言ってしまうのでなく、まず「地域包括支援センターって知ってますか?」と言うような。 【Cさん】その立場にならないとわからないことがいっぱいあると思う。ケアハラ的な発言を直接されたことはない。ただ、休日が多いとは言われる。なんとなく職場の空気がちょっと変わってくる。 初動期は、病院に行って医師の説明を受け、ソーシャルワーカーと話をし、市役所へ行って地域包括支援センターへ行って帰ったらケアマネと話す、とか平日に用事をまとめてやらなければと無理にこなしているのに。 自分は介護している人を手助けするような発言をしたいと思っているが、お互いに介護をしていることがわからないなかで会話をしているので、結構難しいなと思う。 ケアハラ防止は大事だし配慮しながら発言しなければいけないが、よりオープンになっていけば助け合えるとも思う。 【Aさん】私はケアハラを直接受けたことはない。 母は高次脳機能障害で目が見えていないが一見普通なので、デイなどに行くと他の利用者に「どこも悪くないのになんで来てるの?」と言われることもある。 和氣さんのセミナーのアンケート集計をしているが、 若い人は「受講しても実感がわかない」という反応が多く、40代50代の自分や周りに介護者がいる人は「もっと早く知っておきたかった」など長文コメントを書く。 そういう若いまだ介護の実態を知らない人のためにも、実際にしている人が声を上げ、周りに知ってもらうことが理解される一歩だと思う。

ケアハラから心と体を守るには?

【和氣】具体的なセリフとしては、こんなものがある。 「昨日はお父さん、今日はお母さん、何人介護してんの」 「そもそも介護は女がやるものだから早く結婚しろ」 「君にはキャリアアップはないと思え」 「前例がないから対応のしようがない」 「何日休めばいいの?」 介護者の被害者意識が入っているかもしれないが、そんな報告を受けている。 「君にはキャリアアップはないと思え」と言われた介護者は、家では介護をし、会社ではキャリアアップもなく、仕事に意味を見いだせず辞めたい気持ちになっている。 会社にとっても、やる気をなくした社員をおいてもいいことはないのに、さらにモチベーションを下げるようなことを言って何の意味があるのか? 今は変革期なので、前例を作っていかなければならない。 「前例がないから対応のしようがない」のケースは、「降格してもいいから介護できる部署に異動させてほしい」と相談したことに対する回答だった。介護等を理由に、異動時に降格という前例はないと。労働組合にも相談したが、組合は人事には口を出せない立場なので力になりたくてもなれない。 その方には、私は「今の状況で困っているけど話し合いの場を作ってくれない、だから組合を連れてくる」という理由で三者で話せる場を作ったら?とアドバイスをした。 【Cさん】育児の場合だと、復職したときに不利な場所に配属してはいけないことになっている。また、身内が危篤だというのに遠方に異動させるようなこともしない。 そういうのと同じで、これは人事が対応すべきことだと思う。 【和氣】 先程の「キャリアアップはない」と言われた介護者が、もし人事部にそれを相談したらどうなる? 【Cさん】自分の会社ではそんなことは起きないと思うが、起きた場合には発言した本人に話を聞くと思う。「あなた何の権限があってそんなことを言うの?」と。 【Bさん】人事に相談してすぐ発言者に聞きに行くとなると、介護者の立場としてはそのせいでまた当たりが強くなるのではと怖くなる。見えないところでパワハラやケアハラになるかも。 ◆もとから企業体質に問題があるか、自分の環境整備ができていない可能性 【和氣】ケアハラは単にいじめ。たまたま「介護」がいじめる理由になっただけ。 急に会社がいじめ体質になったとは考えられないから、もとからそういう体質だったのでは。介護者になった社員もその空気を作る一員だった可能性もある。 もう一つ気になるのは、介護環境の整備はできているのかということ。 ある介護者には、「会社でひどいケアハラにあっているが、自分が制度や介護サービスの使い方をわかってないのかもしれない。そういうことを教えてくれる方を紹介してほしい」と言われた。 例えば、ヘルパーを一切入れず、夜間も全部自分で世話していて、仕事中居眠りしてたらそれは怒られる。本人は介護で疲れているだけなのに怒られてケアハラだ!と思っているかもしれない。 会社の体質でなく自分が環境整備できてないという場合は、相談先や情報を知らないことが原因で受けなくてもいいケアハラを受けている構造のように思う。 【Cさん】大事なテーマだと思う。しょっちゅう休むほどつきっきりになる必要があるのか、本人も初めての介護だからわからない。人事も介護のことをよくわからないので助け舟が出せない。お互いにコミュニケーション取らない限りは脱することができないのではないか。 【和氣】わからない人同士で膠着してる状態はどうしたらいい? 【Bさん】何か出来事があるときは、双方に原因があるので両方が努力する必要がある。 介護者はカミングアウトしてないことに責任があるし、会社はされたら受け入れないといけない。 【和氣】先程の「自分が知らないだけ?」と気づいた方は、そこを補える人物を紹介してもらおうとした。 「キャリアアップはない」と言われた方には、「キャリアアップは昇格、昇給、仕事の範囲を広げるなど捉え方はいろいろ。社内で介護経験を語ることで新しい仕事を生み出すこともできる」とアドバイスした。 (スタッフ)——介護を理由にいじめるとか、「介護環境を整備できている人は別だけど手際が悪い人ならケアハラしてもいい」は理由にはならない。居眠りという行動だけ見てすぐケアハラに走るのではなく、まずは事情を聞いてみて、悩んでいれば相談にのる。そういう互いの歩み寄りがケアハラ回避には必要なのでは? 【和氣】でもそこで、お互いに知識がなかったら結局どちらも動けなくなる。それが現状。どの会社も。 人事は「とりあえずケアマネに相談してみれば?」くらいしか言えない。地域包括支援センターなんて言葉は出てこない。そういう基礎的なところに気づいてほしい。企業側は介護業界と接点がない。外部組織と連携したいがどこにいるか知らないから、社内でケアマネージャーを雇いたくてもどうやって雇えるのかわからない。 ある企業では、産業医制度に倣い「産業ケアマネ」を設置し、社内の制度を学ばせ介護相談の窓口にすることを考えているそうだ。 (スタッフ)——周りの会話で傷ついたというケースに対しては、介護を知らない視点から発言しているので、「介護者の立場としてはこう感じている」と異なる視点から言ってみて気づかせるのはどうか。その視点がないから何気なく言ってしまうのだから。それで態度が変わらなくてもいいけれど、違う視点が存在することは知ってもらう。 【Bさん】うちの人事は、相談者を私に引き渡すだけ。育児支援のくるみんの取得で忙しいようだが、トモニンについては「それは介護に対して熱い思いを持っている人がやれば」と、会社ごととして捉えてもらえない。 Cさんは、カミングアウトされてるんですか? 【Cさん】自分自身はとくに隠してはいない。 【Bさん】そういう方が人事部にいるといいですね。自分の取り組みが直結じゃないですか。 【Cさん】そうですね、あと産業医や保健師が予備知識を持っているので、わからなければそういう方々と連携できる。それを社員にフィードバックするのはどこの会社でももっとできるのではないか。 【和氣】問題は、そういう仕掛けがあっても従業員が知らないこと。どうしても介護は他人事にとらえがち。従業員全員に周知するのが一番重要なので、私が相談業務を請け負っている会社には、「人事に報告すること」を決まりにしてくださいと言っている。空気作りやムーブメントを起こすには、悠長なことを言っていられない。最初はある程度強制力を持ってでもやらないと。大体、介護の知識は知っておいて損はない。 【Aさん】本当にそう思う。みんな両親がいて、何十年かしたら親が要介護状態や病気がちになったりする。突然慌てるととても大変なので、事前に少しでも知っていれば大きく差がつく。最低限の知識は若い人も知っていて損はない。 【和氣】要介護者本人は変われないので、周りにいる関係者や介護者自身が変わるべき何だと思う。ケアハラも、自助努力はある程度必要。自分が変わったら周りや会社も変わるかもしれない。 ◆会社はどんなふうに制度を整備すべきなのか? 【Bさん】eラーニングで社内研修をしているが、受講率が上がらない。そこで評価対象にして給与に反映させたら全然反応が違った。だから、社内の介護セミナーも研修の年間取得単位の対象にするのはありかも。今はまだ自主的に参加を求めるよりも、制度にするのがいい。 【Cさん】周りが納得感を持てるかが難しい。育児でも同様のことが起きやすい。「何で育児の人だけ優遇されるんですか?」とか。差別しない・されない雰囲気を作って行くしかない。 育児介護でどうしても短時間で仕事をすませることはある。そのマイナス面に影響される意味はなくて、仕事の結果だけを見るべき。結果が良くなくて評価が上がらないとしても、それは差別ではない。自分自身がやれる最大限のことをやっている、というところを見れば良い。理由は関係ない。 【和氣】仕事との両立支援策は、「何か理由があるから」時短・在宅ではなく、(単に働き方の種類として)選択できたらいい。どの業種や職種にも当てはまるとは限らないけど、誰でもやっていい。 ある企業ではテレワーク利用が100人もいるが、「その中にはひょっとして介護の人もいるかもしれませんねえ」と言うぐらい(介護は特殊な理由ではない)。理由がある人にだけ許可するものではない。 働き方は、企業成長するために必要だから導入しているだけ。私たちはそれにあぐらをかいてはいけない。 【Bさん】出産予定の従業員に「子供を保育園でなく幼稚園に通わせたいけど、そうすると2時間しか勤務できない。そのための人事制度がないよね」と言われた。一方総務の上司は、「意見を否定するわけではないが、会社としてはどこまで譲歩し制度を拡大すればいいのか難しい。各個の要望すべては聞けない」という意見だった。 【和氣】「会社としてはどこまでやればいいのか」とはよく聞かれる。その会社でできる範囲でいろいろな制度を用意しすればいい。従業員はその中で頑張れるように介護環境を整備すればいい。 もし従業員が、「自分の手で介護をすべてやりたい。すると2時間しか働けないのに合う制度がない」と言うなら、雇用条件自体を見直こともあり得る。ただ、介護の初動期は自分の手でやりたくなるものなので、試しに1ヶ月程度要望通りにさせて、面談でまた見直すのも良いだろう。 【Cさん】企業にも限界はある。モーレツ体質企業や中小企業などでは「やりたくてもできません」という事情もあるだろう。それを「会社がやってくれない」と言っても解決がつかない。介護者がどこまでスリム化するとか、会社の制度に頼らなくて済むようなやりかたを見つける必要もあるのでは。 【和氣】介護のプロに頼る・見つけるという、人に任せるスキルも必要ではないか。人に仕事を振れない人ほど仕事ができないというが、それと同じ。介護を人に頼むのが悪だという風潮があるから振れないというのもあるけど、「人に頼る」のも能力。 【Cさん】今日自分がここに来られたのも、人に頼んで時間を作ることができたから。 以前は、母の通院に付き添い、医師が母をよく叱るのでフォローのためにも同席していた。そのうち医療との関わりかたの上手い人を見つけ、代わりに行ってもらうことで全て付き添う必要はなくなった。 自分の「介護に関わる技術」を少しずつでも上げてく努力が要る。 ケアハラを受けてしまうような環境から自分が避ける力を、身につけていくのが大事なのではないか。 ◆世間の認識が変わるには、できる人が一歩を踏み出すこと 【和氣】渦中にいるのは介護者自身なのだから自分が解決しないといけないが、自分の体を使うのではなく周りを頼っていい。 できる人がやっていかないと変わらない。コンビニの店長のことも、言ってもムダだと思った。私に言われてハッとして、お店が良くなるきっかけになればいいけど。 言うのは勇気がいる。報復されるかもしれない。皆ができるとは思わないけど、一歩を踏み出した人には、周りも支えてあげてほしい。 【Bさん】店長は自分が悪いと思ってないよね。昔の私なら「そんな母親ですみません」と言ってしまったと思う。店長は当然そういう反応が返ってくると思ってる。 (スタッフ)——世の中、五体満足でまともな判断力を持っている人だけが生きてるわけじゃないんだから、そこに考えが及べば「お母さんをお店に寄越すな」なんて言わないはずなのにね。 【Bさん】うちの来店者にも高齢者は増えてきている。誰にでも抱きついてしまう女性客の方を、規約の「自分で責任を持てない方は退会」に該当させていいものか、本部に相談が来る。ご家族に連絡してみると、「うちの母はまだボケてない、何を失礼なこと言うのか」と受け入れない。 【和氣】これをきっかけに何か介護者視点、高齢者視点のサービスを考えてくれたら企業発展のヒントになるのではないか。それで私たちも幸せになれる。そして、そういったサービス開発をするために、まずは基本的な介護の知識を知る。どんな形でもいいから興味を持ってほしい。

まとめ

【Aさん】介護者と企業との歩み寄りが大切だと思った。お互いに、勉強して知識をつけて現状を変え、お互いに成長していくというのが大事。 【Bさん】ケアハラを受けたときの解決法をこういう場で共有ができるのはありがたい。2ヶ月に一度なのが待ち遠しいので、今後も開催を続けてほしい。 【Cさん】一人で考えていると発想がどうしても小さくネガティブになりがちだが、皆さんと話していて解決方法や共有したほうがいいかとか肌感覚でわかったのでよかった。

雑感

今回はアラジンの新カフェで行いました。親戚の「おうち」にお邪魔したような感覚でした。 そんなリラックスした中でも熱い議論があり、今日も学びの多い日でした。 介護をしながら働くことが当たり前、そして介護が日常に普通にあることが当たり前の社会になるために 皆さんと一緒に活動していこうと、改めて思いました!